幻想のパランプセスト ~架空の美術庭園~ vol. 3 藤田典子


「芸術家たちが紡ぎだし、いにしえより積みあげていった数多の幻想は、複雑に重なり合い互いを刺激し合いながら共存し、とどまることを知らずに蠢いて、とわに変容し続けるだろう。
そして、それらはわれわれの膠着した日常を揺さぶりつつ、現実を改変し続けていくだろう。」

Web企画〈幻想のパランプセスト ~架空の美術庭園~〉
2024年11月 相馬俊樹(美術評論家)


vol. 3 藤田 典子|Fujita Noriko

版画家

2013 etching 11.5×11.5cm ed.20 ¥33,000


顔のない少女

顔のない少女という、いわば「少女」の概念の幽霊のごときものがその深淵部を解き放ち、神話的な驚夢を外の世界へ湧出させる。謎めく夢は増殖を繰り広げ、やがて夢の主人であるはずの少女をもとり込もうとするかのようだ。

2010 etching 35×35cm ed.20 ¥66,000

2011 etching 35×35cm ed.20 ¥66,000

2011 etching 35.5×49.5cm ed.20 ¥88,000

ときに夢はデカダンスの毒をも秘めつつ、暗いエロスの魔想へと変化を遂げることもあろう。また、ときに夢は秘技的産卵夢へと展開し、鳥類をモデルとしたとおぼしき、母とは異なる少女独自の産出様式を模索することもあろう。

2013 etching 53.5×69.5cm ed.15 ¥165,000

2015 etching 24×20cm ed.15 ¥44,000

様々な展開を繰り返しながら少女の夢は膨張し、しだいに、胎内イメージと巨大洞窟イメージの圧縮融合たる胎内宇宙夢へと形を整えていくだろう… どうやら、夢の力は狂気的な微細化蠢動を駆使して、大きく渦を巻く、迷宮的/グロッタ的子宮大伽藍を築こうと試みているようなのである… そして、その深奥には、生と死が婚姻を遂げる濃密な闇の安らぎが抱かれている。 

繊細な点描版刻を胎内巡りに見立てた藤田典子の芸術的営みは、徐々にある種の原始的な儀礼行為に近づきつつあるのかもしれない。

2012 lithograph 53.5×69.5cm ed.10 ¥99,000

2014 etching 24×30cm ed.20 ¥55,000


Artist

1988年 大阪府大阪市生まれ。2011年 愛知県立芸術大学 美術学部美術科 油画専攻 卒業。2016年 同大学 大学院美術研究科博士後期課程 油画・版画領域 修了(同博士号取得)。「うつす」展(愛知県美術館ギャラリー/愛知)「アナムネシスの光芒へ-幻視者の蒐集箱-」(不忍画廊)クラコウ国際版画トリエンナーレ(クラコウ市立美術館/ポーランド) 個展:不忍画廊、伊勢現代美術館(三重)ほか 収蔵:町田市立国際版画美術館

Art critic

相馬 俊樹|Toshiki Soma

1965年生まれ。慶応義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒。美術評論家。
主な著書:『エロティック・アートと秘教主義』(2018年、エディシオン・トレヴィル)、『アナムネシスの光芒ヘ』(2016年、芸術新聞社)、『禁断異系の美術館』シリーズ1~3(2009~2010年、アトリエサード)、『エロス・エゾデリック』(2011年、アトリエサード)、『テリブル・ダークネス』(2013年、アトリエサード)、『魔淫の迷宮 日本のエロティック・アート作家たち』(2012年、ポット出版)
編著:「風俗資料館 資料選集」シリーズ=『秋吉巒 挿画集 夢幻の悦楽郷』(2024年、アトリエサード)『伊藤晴雨の世界2 伊藤晴雨 秘蔵画集~門外不出の責め絵とドローイング』(2024年、アトリエサード)/『伊藤晴雨の世界1 [秘蔵写真集]責めの美学の研究』(2023年、アトリエサード)
共著書:『病と芸術』(2022年、東信堂、ロメーン・ブルックス論を収録)、『異界の論理』(2011年、アトリエサード、飯沢耕太郎氏との対談集)
訳書:ピーター・ウェブ『死、欲望、人形 評伝ハンス・ベルメール』(2021年、国書刊行会)

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