




vol. 11 門坂 流|Kadosaka Ryu

《夏雲》
1987 エングレーヴィング 26.5×17cm ed. 75 ¥90,200
「幻想のフラヌール – 版画家たちの夢・現・幻」出品(2024年 町田市立国際版画美術館)
長い時間を費やして習得した版刻の魔力を駆使して、門坂流が明晰に浮かびあがらせるのは、おもに、うねりや飛沫と化した川の流れ、狂おしく渦巻く海流、生のエネルギーを横溢させる樹木、妖しく揺れ動く植物の葉などであり、要するに、自然に秘められた、つねに蠢いてやまない力(フォルス)であるが、それはときにあまりにも荒々しく、不穏でさえあった。たしかにそれらは、自然の対象を自らに役立つ手段として飼いならそうとするわれわれの日常的‐習慣的な眼には、見なれたと思い込んでいる自然が異様に変貌したかのごとき幻想的なイメージとしてうつるかもしれない。

《荒波》
1993 エングレーヴィング 14.7×35.7cm ed. 75 ¥91,300
「幻想のフラヌール – 版画家たちの夢・現・幻」出品(2024年 町田市立国際版画美術館)

《野菊》
1987 紙、インク 34×30cm ¥220,000

《櫟の落葉》
1993 エングレーヴィング 13.5×22cm ed. 75 ¥44,000
だが、日々の生活に追われるわれわれとて、つねに日常‐習慣の眼に囚われているというわけではない。ふとしたときに呪縛から解き放たれて、その眼が芸術家の眼と一致することもあったはずである。そのとき、幻想と思っていたものは、実のところ、生の現実の過剰であったと気づくのではなかろうか。ただし、その体験がたとえ日常に亀裂を穿つほどの強烈なものであったとしても、逃れようのない日常への復帰がわれわれのうちに芽生えた芸術家の眼を生活に役立たない無用な異物、すなわち得体の知れない他者の眼と断じて、ふたたび記憶の奥底へ封印してしまうだろう。

《海鵜》
1987 紙、インク 26.5×18.5cm ¥154,000
『風力の学派 : 門坂流作品集』(1988 ぎょうせい刊)p. 49 掲載

《大波》
1985 紙、インク 27×35cm ¥198,000
『風力の学派 : 門坂流作品集』(1988 ぎょうせい刊)p. 92-93 掲載
門坂流の残した作品群は、抑圧され、封じられた、ときに戦慄を予感させるほどに豊穣な生の記憶を刺激し、呼び覚ますアナムネシス(記憶回復)の装置とはいえまいか。それは、何度でも、濃密で過剰な生の躍動へとわれわれを連れ戻してくれるだろう。
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《オンディーヌ(紫)》
2010 エングレーヴィング、手彩色 31.5×23.5cm ed. 20 ¥93,500

《夢想》
2009 キャンバス、油彩 22×27.3cm(F3) ¥220,000
Artist
1948年 京都市生まれ。1968年 東京藝術大学油絵科入学(同期に建石修志、智内兄助、辰野登恵子、柴田敏雄)、1973年から鉛筆・ペンによる制作を開始、装幀や挿絵などの仕事多数。1985年頃からエングレーヴィング(銅版画)手法を研究。2014年永眠。
主な展覧会:「流紋」(1987 INAXギャラリー *初個展)、「門坂流・グラフィックの世界展」(1991 伊勢丹新宿店)、「門坂流 Selected Works 1985-2003」(2004 不忍画廊)、「幻想のフラヌール―版画家たちの夢・現・幻」(2024 町田市立国際版画美術館)ほか
出版:『風力の学派―門坂流作品集』(1988 ぎょうせい)、『門坂流作品集 百年の預言』(2000 朝日新聞連載・髙樹のぶ子『百年の預言』装画集)、『Ryu KADOSAKA Drawing Works I』(2006 不忍画廊)、『Engraving』(2013 不忍画廊)ほか
パブリックコレクション:町田市立国際版画美術館(ほぼ全版画収蔵)、黒部市美術館、A.D.A.F.A.(イタリア)ほか
Art critic
相馬 俊樹|Soma Toshiki
1965年生まれ。美術評論家。慶応義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒。
企画協力:「幻想のフラヌール―版画家たちの夢・現・幻」(2024 町田市立国際版画美術館)
主な著書:『エロティック・アートと秘教主義』(2018 エディシオン・トレヴィル)、『アナムネシスの光芒へ—幻景綺論』(2016 芸術新聞社)、『禁断異系の美術館』シリーズ1~3(2009~10 発行:アトリエサード/発売:書苑新社)、『魔淫の迷宮—日本のエロティック・アート作家たち』(2012 ポット出版)ほか
編著:「風俗資料館 資料選集」シリーズ=『伊藤晴雨の世界1 [秘蔵写真集]責めの美学の研究』(2023)、『伊藤晴雨の世界2 伊藤晴雨 秘蔵画集〜門外不出の責め絵とドローイング』(2024)、「風俗資料館 秘蔵画選集」シリーズ=『秘匿の残酷絵巻[増補新装版]〜臼井静洋・四馬孝・観世一則』(2023)、『秋吉巒・四条綾 エロスと幻想のユートピア』(2011)、すべて発行:アトリエサード
共著書:『病と芸術』(2022 東信堂 ロメーン・ブルックス論を収録)、『異界の論理』(2011 アトリエサード 飯沢耕太郎氏との対談集)
訳書:ピーター・ウェブ、ロバート・ショート『死、欲望、人形: 評伝ハンス・ベルメール』(2021 国書刊行会)
出演:「小峠英二のなんて美だ!」(2026 TOKYO MX)


展覧会概要
〈門坂流展〉 幻想のパランプセスト ~架空の美術庭園~ vol. 11 門坂 流
会期|2026.7.11(土) – 8.1(土) 12:00–18:00 ※休廊日:月・火・水・祝日
会場|不忍画廊 (〒103-0027 東京都中央区日本橋3-8-6 第2中央ビル4階)
*同時開催:〈幻想のパランプセスト 渡辺千尋展〉


日本を代表し世界レベルの作品を遺した二人のエングレーヴィング作家・渡辺千尋(1944–2009 東京生まれ長崎育ち)と門坂 流(1948–2014 京都生まれ)。遺された貴重な作品(銅版画、油彩、ドローイングなど)より一作家15〜20点ほどを出品予定です。同じ黒・同じ手法でも “異なるエネルギー” を放つ作品たちをお楽しみください。
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