幻想のパランプセスト ~架空の美術庭園~ vol. 6 成田朱希


「芸術家たちが紡ぎだし、いにしえより積みあげていった数多の幻想は、複雑に重なり合い互いを刺激し合いながら共存し、とどまることを知らずに蠢いて、とわに変容し続けるだろう。
そして、それらはわれわれの膠着した日常を揺さぶりつつ、現実を改変し続けていくだろう。」

Web企画〈幻想のパランプセスト ~架空の美術庭園~〉
2024年11月 相馬俊樹(美術評論家)


vol. 6 成田朱希|Narita Aki

画家

2020 キャンバス、油彩 72.7×60.6cm (F20)
額付 ¥880,000


 成田朱希は若きころより一貫して、少女のエロスの不可思議を追求してきた画家である。少女の蠱惑をテーマに選ぶ作家の数多いる昨今ではあるが、妖艶であるかと思えば、またときに冷淡でもあるそのコアに彼女ほど深く接近した画家はそうお目にかかれるものではあるまい。その作品を一度でも見たことのある者なら誰もが感じるであろう、画布の奥底から滲みでるような凄みが彼女の絵を特異ならしめているとでもいおうか。

2023 キャンバス、油彩  53×45.5cm (F10)
¥495,000

2024
キャンバス、油彩
91×72.7cm (F30)
¥770,000

2024
キャンバス、油彩
91×72.7cm (F30)
¥770,000

 成田の描く少女たちは、明るい光のなかでなく、血に染められた闇に棲息している。うら若き蠱惑の実を絞られて、官能の陶酔剤を濃縮させた美淫の呪物と化している。透き通る瞳から発せられる氷柱のごとき視線と、血糊のように紅を塗りたくられた美しくも妖しい唇は、見る者を即座に呪縛するだろう。

2025 キャンバス、油彩 53×45.5cm (F10)
¥495,000

2002 キャンバス、油彩 22×27.3cm (F3)
額付 ¥198,000

 少女以外のエロティック表現においても、やはり、成田の絵には血の匂いの香り立つような、深い闇を溶かし込んだような、異様な妖気が拭いされずにこびりついている。十九世紀西洋の象徴派・デカダン派を震撼させたファム・ファタル(宿命の女)の、現代における再来あるいは眷族といえばいえようが、成田の描く肖像や裸婦像、あるいは性愛表現には、われわれを一瞬にして射抜く独特の「魔」がつねに宿っている。飼い慣らすことも制御することもできそうにない、そんな不安を煽る恐ろしくも魅惑的な「魔」が…

2024
キャンバス、油彩
41×31.8cm (F6)
¥330,000

2024
キャンバス、油彩
41×31.8cm (F6)
¥330,000

2025
ケント紙、カラーインク、
鉛筆、パステル
10.5×5.5cm
額付 ¥33,000

2025
ケント紙、カラーインク、
鉛筆、パステル
12.6×10.5cm
額付 ¥38,500

2020
ケント紙、カラーペン、
鉛筆、パステル
170×70cm (全体)
¥495,000

2020 ケント紙、カラーペン、鉛筆、パステル 170×70cm (全体)
¥495,000


Artist

1966年 青森県生まれ。幼少から漫画・絵本・文学等を手本に独学で絵を描き始める。20歳(1986)頃に上京し以降、ヨシダヨシエ、細江英公、秋山祐徳太子等と交遊。
はやい時期よりその才を評価された早熟の、そして独学の画家であり、のちに漫画表現をはじめ多方面に活動の場を広げていった。2015年には汐留・パークホテル東京の客室を各作家の絵で埋め尽くすという大がかりな企画に参加し、大作の客室壁画《芸者 金魚》を見事完成させた。
成田のテーマは一貫して、少女の匂い立たせる妖しくも謎めいたエロスであったが、彼女ほどそのコアを深く濃密に追求した表現者はなかなかいないのではなかろうか。成田の差しだすうら若き蠱惑の果実は甘美で、なおかつ危険であり、われわれを恍惚のうちに呪縛するだろう。

Art critic

相馬 俊樹|Soma Toshiki

1965年生まれ。慶応義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒。美術評論家。
主な著書:『エロティック・アートと秘教主義』(2018年、エディシオン・トレヴィル)、『アナムネシスの光芒ヘ』(2016年、芸術新聞社)、『禁断異系の美術館』シリーズ1~3(2009~2010年、アトリエサード)、『エロス・エゾデリック』(2011年、アトリエサード)、『テリブル・ダークネス』(2013年、アトリエサード)、『魔淫の迷宮 日本のエロティック・アート作家たち』(2012年、ポット出版)
編著:「風俗資料館 資料選集」シリーズ=『秋吉巒 挿画集 夢幻の悦楽郷』(2024年、アトリエサード)『伊藤晴雨の世界2 伊藤晴雨 秘蔵画集~門外不出の責め絵とドローイング』(2024年、アトリエサード)/『伊藤晴雨の世界1 [秘蔵写真集]責めの美学の研究』(2023年、アトリエサード)
共著書:『病と芸術』(2022年、東信堂、ロメーン・ブルックス論を収録)、『異界の論理』(2011年、アトリエサード、飯沢耕太郎氏との対談集)
訳書:ピーター・ウェブ『死、欲望、人形 評伝ハンス・ベルメール』(2021年、国書刊行会)

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