相馬俊樹 幻想のパランプセスト 〜架空の美術庭園〜 vol. 2 二階 武宏


「芸術家たちが紡ぎだし、いにしえより積みあげていった数多の幻想は、
複雑に重なり合い互いを刺激し合いながら共存し、
とどまることを知らずに蠢いて、とわに変容し続けるだろう。

そして、それらはわれわれの膠着した日常を揺さぶりつつ、現実を改変し続けていくだろう。」

〈幻想のパランプセスト 〜架空の美術庭園〜〉
2024年11月 相馬俊樹(美術評論家)


vol. 2 二階 武宏|Nikai Takehiro

木口木版画家

2010年 木口木版 40×28.5cm ed.35 ¥110,000

外の世界に解き放たれて生々しく息づく臓器の断片は、
肉の感触を纏う花々として燃えさかり、
麗しき肉色華へと変容―結晶化する……

医療現場で人体解剖図を描き続けた亀井三千代は
解剖画と植物画との婚姻を夢み、やがて、
解剖画と春画とを融合させる独創的な着想を育んでいった。

相馬俊樹


二階武宏と木口木版画(こぐちもくはんが)

 二階武宏は、木口木版という、18世紀の西洋で誕生した挿絵技法を使いこなす稀有な版画家のひとりである。彼は、多くの時間と修練を費やさねば習得困難なはずのその特殊技法を短期間で身につけ、相当の完成度にまで高めたという。

2014年 木口木版 14.7×26cm ed.35 ¥44,000

2011年 木口木版 10×13cm ed.60 ¥27,500

2019年 ミクストメディア(パネル・金箔・木口木版画コラージュ 他) 11.5×10×5cm ¥38,500

2020年 ミクストメディア(パネル・金箔・木口木版画コラージュ 他) 10×8×5cm ¥38,500

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: cd7e8ee8e547777804b794f15aee9016-1024x780.jpg

2009年 木口木版 26.5×38cm ed.50 ¥165,000

肉を纏う存在と機械類の蝟集

 畸形を極めた怪物らは、一言でいうなら、肉を纏う存在と機械類とが侵食し合いながらダイナミックに蝟集する混合物である。彼らはいまだ生成途上のようであり、形も定まらず、身体の組織化もなされないまま、やまず全身体的に蠢いているとおぼしい。

 過剰な生成力、あるいは横溢する生命力という名の神々は、常に、人間には計り知れないある種の陽気さに満ち満ちているのかもしれない。

2006年 木口木版 41×31cm ed.30 ¥110,000

2017年 紙、ドローイング 28×20.2cm ¥99,000

2021年 紙、ドローイング 25×17cm ¥99,000

 二階武宏の奇異なる空想博物誌に次はいかなる怪神が名を連ねるのか、期待に胸を膨らませつつ心待ちにしているのは、おそらく、わたくしだけであるまい。

2022年 木口木版 26×40cm ed.35 ¥165,000


Artist:

1980年愛知県名古屋市生まれ。京都精華大学卒業。2012年にはポルトガル(ドウロ)の国際版画ビエンナーレへの出品も果たしている。
二階は、18世紀のヨーロッパで誕生し、現在では習得の困難な技法として知られる木口木版を若きころに短期間でマスターした稀有な版画家である。そして、細密を極めた二階の線描が浮かびあがらせるのは、多くの場合、人間や鳥類や魚類や哺乳類に用途不明の機械群が複雑に入り乱れて融合する、奇怪で異様なハイブリッドの怪物たちであった。
彼が積み重ねてきた作品群は、これら驚異的な怪物らを記録した幻想の博物誌とみることもできよう。比較的近年の作では、自らの綺想をドローイングに定着させようと試みてもいる。

Art critic:

相馬 俊樹|Soma Toshiki

1965年生まれ。慶応義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒。美術評論家。
主な著書:『エロティック・アートと秘教主義』(2018年、エディシオン・トレヴィル)、『アナムネシスの光芒ヘ』(2016年、芸術新聞社)、『禁断異系の美術館』シリーズ1〜3(2009〜2010年、アトリエサード)、『エロス・エゾデリック』(2011年、アトリエサード)、『テリブル・ダークネス』(2013年、アトリエサード)、『魔淫の迷宮 日本のエロティック・アート作家たち』(2012年、ポット出版)
編著:「風俗資料館 資料選集」シリーズ=『秋吉巒 挿画集 夢幻の悦楽郷』(2024年、アトリエサード)『伊藤晴雨の世界2 伊藤晴雨 秘蔵画集〜門外不出の責め絵とドローイング』(2024年、アトリエサード)/『伊藤晴雨の世界1 [秘蔵写真集]責めの美学の研究』(2023年、アトリエサード)
共著書:『病と芸術』(2022年、東信堂、ロメーン・ブルックス論を収録)、『異界の論理』(2011年、アトリエサード、飯沢耕太郎氏との対談集)
訳書:ピーター・ウェブ『死、欲望、人形 評伝ハンス・ベルメール』(2021年、国書刊行会)


「芸術家たちが紡ぎだし、いにしえより積みあげていった数多の幻想は、複雑に重なり合い互いを刺激し合いながら共存し、とどまることを知らずに蠢いて、とわに変容し続けるだろう。
そして、それらはわれわれの膠着した日常を揺さぶりつつ、現実を改変し続けていくだろう。」

〈幻想のパランプセスト〜架空の美術庭園〜〉
2024年11月 相馬俊樹(美術評論家)


vol. 2 二階 武宏|Nikai Takehiro

木口木版画家

群飛
2010年 木口木版 40×28.5cm ed.35 ¥110,000

外の世界に解き放たれて生々しく息づく臓器の断片は、
肉の感触を纏う花々として燃えさかり、
麗しき肉色華へと変容―結晶化する……

医療現場で人体解剖図を描き続けた亀井三千代は
解剖画と植物画との婚姻を夢み、やがて、
解剖画と春画とを融合させる

独創的な着想を育んでいった。

相馬俊樹


二階武宏と木口木版(こぐちもくはんが)

 二階武宏は、木口木版という、18世紀の西洋で誕生した挿絵技法を使いこなす稀有な版画家のひとりである。彼は、多くの時間と修練を費やさねば習得困難なはずのその特殊技法を短期間で身につけ、相当の完成度にまで高めたという。

《嘲笑する魚》
2014年 木口木版 14.7×26cm ed.35 ¥44,000

《渦》
2011年 木口木版 10×13cm ed.60 ¥27,500

《屹立 (tw-3)》
2019年 ミクストメディア(パネル・金箔・木口木版画コラージュ 他) 11.5×10×5cm ¥38,500

《眠り (gw-1)》
2020年 ミクストメディア(パネル・金箔・木口木版画コラージュ 他) 10×8×5cm ¥38,500

出現
2009年 木口木版 26.5×38cm ed.50 ¥165,000

肉を纏う存在と機械類の蝟集

 畸形を極めた怪物らは、一言でいうなら、肉を纏う存在と機械類とが侵食し合いながらダイナミックに蝟集する混合物である。

 彼らはいまだ生成途上のようであり、形も定まらず、身体の組織化もなされないまま、やまず全身体的に蠢いているとおぼしい。

cloud
2006年 木口木版 41×31cm ed.30 ¥110,000

更-夜#2
2021年 紙、ドローイング 25×17cm ¥99,000

 過剰な生成力、あるいは横溢する生命力という名の神々は、常に、人間には計り知れないある種の陽気さに満ち満ちているのかもしれない。


2017年 紙、ドローイング 28×20.2cm ¥99,000

 二階武宏の奇異なる空想博物誌に次はいかなる怪神が名を連ねるのか、期待に胸を膨らませつつ心待ちにしているのは、おそらく、わたくしだけであるまい。

更夜
2022年 木口木版 26×40cm ed.35 ¥165,000


Artist:

1980年愛知県名古屋市生まれ。京都精華大学卒業。2012年にはポルトガル(ドウロ)の国際版画ビエンナーレへの出品も果たしている。
二階は、18世紀のヨーロッパで誕生し、現在では習得の困難な技法として知られる木口木版を若きころに短期間でマスターした稀有な版画家である。そして、細密を極めた二階の線描が浮かびあがらせるのは、多くの場合、人間や鳥類や魚類や哺乳類に用途不明の機械群が複雑に入り乱れて融合する、奇怪で異様なハイブリッドの怪物たちであった。
彼が積み重ねてきた作品群は、これら驚異的な怪物らを記録した幻想の博物誌とみることもできよう。比較的近年の作では、自らの綺想をドローイングに定着させようと試みてもいる。

Art critic:

相馬 俊樹|Soma Toshiki

1965年生まれ。慶応義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒。美術評論家。
主な著書:『エロティック・アートと秘教主義』(2018年、エディシオン・トレヴィル)、『アナムネシスの光芒ヘ』(2016年、芸術新聞社)、『禁断異系の美術館』シリーズ1〜3(2009〜2010年、アトリエサード)、『エロス・エゾデリック』(2011年、アトリエサード)、『テリブル・ダークネス』(2013年、アトリエサード)、『魔淫の迷宮 日本のエロティック・アート作家たち』(2012年、ポット出版)
編著:「風俗資料館 資料選集」シリーズ=『秋吉巒 挿画集 夢幻の悦楽郷』(2024年、アトリエサード)『伊藤晴雨の世界2 伊藤晴雨 秘蔵画集〜門外不出の責め絵とドローイング』(2024年、アトリエサード)/『伊藤晴雨の世界1 [秘蔵写真集]責めの美学の研究』(2023年、アトリエサード)
共著書:『病と芸術』(2022年、東信堂、ロメーン・ブルックス論を収録)、『異界の論理』(2011年、アトリエサード、飯沢耕太郎氏との対談集)
訳書:ピーター・ウェブ『死、欲望、人形 評伝ハンス・ベルメール』(2021年、国書刊行会)