幻想のパランプセスト ~架空の美術庭園~ vol. 4 多賀 新

vol. 4 多賀 新|Taga Shin

1981 銅版画 36.5×24cm ed.HC
江戸川乱歩文庫『陰獣』(春陽堂書店)表紙絵
¥124,300


 現在もなお、おもに流麗な線描画で意欲的に制作活動を継続する多賀新は、あらためてことわるまでもなく、七十年代・八十年代にエロティシズムを極めたあまたの銅版画を残したことで知られる。人口に膾炙した氏の代表作は江戸川乱歩の春陽堂文庫版表紙絵シリーズであるが、珠玉作はそれらにかぎられるわけではない。痙攣するがごとき神経質な細線が描きだすのは、ドイツのシュルレアリスト、ハンス・ベルメールを髣髴とさせる、異様で奇怪な官能の異次元空間であり、病的なまでに歪み、変容し、ときに崩壊をも予感させる驚異の裸体群であった。

1982 銅版画 50×36.5cm ed.HC
江戸川乱歩文庫『盲獣』(春陽堂書店)表紙絵
¥165,000

1974 銅版画 36.5×28cm ed.35/35
江戸川乱歩文庫『大暗室』(春陽堂書店)表紙絵
¥118,800

2000 銅版画 30.5×44.5cm ed.29/40
¥140,800

 ある種の内なる力─エロスの横溢が、それに耐えることのできない所与(既存)の身体、すなわち身体の定型にまずはデカダンスをもたらすだろう。皮膚と身肉は惨たらしく裂かれ、内臓は溢れだし、骨はあらわとなる。おそらく身体はゆっくりと解体へ向かうこのような蠢きの過程で、みだらな肉そのものへの回帰を体験するのかもしれない。いわば、身体の形が形成される以前の身体の故郷─原点としての、身体の暗黒時代としての肉を一度通過して、身体はよりエロティックなステージを目指し、新たにつくり変えられるのだろう。

1977 銅版画 36.5×22cm ed.HC
江戸川乱歩文庫『三角館の恐怖』(春陽堂書店)表紙絵
町田市立国際版画美術館蔵
¥124,300

1981 銅版画 24×36.5cm ed.AP
江戸川乱歩文庫『孤島の鬼』(春陽堂書店)表紙絵
¥118,800

1982 銅版画 24.5×42cm ed.42/44
江戸川乱歩文庫『白髪鬼』(春陽堂書店)表紙絵
¥124,300

 多賀の銅版作品において、変容した身体が官能的な怪天使や異界の人種や魔的な母神といった、グロテスクではあるが、不思議と高潔さを湛えた未知の存在様式に一旦定着することがあるとしても、やはり、身体変容の運動は継続的に幾度でも繰り返されるのではなかろうか。そもそも「…官能性は、たんに欲望された客体が現前するだけでなく、その客体が変形されるときにはじめて呼び覚まされる」(ジョルジュ・バタイユ)からであり、また何よりも、一旦固定された身体をふたたび変容させ、つくり変えようとする内なる力─エロスの泉は枯れることなく、つねに湧出しているからである。そして、そのことは多賀の膨大な銅版作品群がはっきりと証立てているといえよう。

1977 銅版画 48.5×36.5cm ed.HC
江戸川乱歩文庫『パノラマ島奇談』(春陽堂書店)表紙絵
SOLD

2021 鉛筆画 32×23cm ¥352,000

2021 鉛筆画 23×32cm ¥352,000

2021 鉛筆画 23×32cm ¥352,000


Artist

多賀 新|Taga Shin

1946年 北海道本別町に生まれる。
1969年 独学で銅版画をはじめる。
1973年 版画グランプリ展賞受賞。
1983-84年 文化庁在外研修派遣員としてアメリカ・西ドイツで研鑽を積む。
代表作に「銅版画・江戸川乱歩の世界」「新十二神将合体図」など。
2005年 市川市民文化賞受賞。

Art critic

相馬 俊樹|Soma Toshiki

1965年生まれ。慶応義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒。美術評論家。
主な著書:『エロティック・アートと秘教主義』(2018年、エディシオン・トレヴィル)、『アナムネシスの光芒へ—幻景綺論』(2016年、芸術新聞社)、『禁断異系の美術館』シリーズ1~3(2009~2010年、発行:アトリエサード/発売:書苑新社)、『魔淫の迷宮—日本のエロティック・アート作家たち』(2012年、ポット出版)ほか。
編著:「風俗資料館 資料選集」シリーズ=『伊藤晴雨の世界2 伊藤晴雨 秘蔵画集〜門外不出の責め絵とドローイング』(2024年)、『伊藤晴雨の世界1 [秘蔵写真集]責めの美学の研究』(2023年)/「風俗資料館 秘蔵画選集」シリーズ=『秘匿の残酷絵巻[増補新装版]〜臼井静洋・四馬孝・観世一則』(2023年)、『秋吉巒・四条綾 エロスと幻想のユートピア』(2011年)(すべて発行・アトリエサード)
共著書:『病と芸術』(2022年、東信堂、ロメーン・ブルックス論を収録)、『異界の論理』(2011年、アトリエサード、飯沢耕太郎氏との対談集)
訳書:ピーター・ウェブ、ロバート・ショート『死、欲望、人形: 評伝ハンス・ベルメール』(2021年、 国書刊行会)

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