




「芸術家たちが紡ぎだし、いにしえより積みあげていった数多の幻想は、複雑に重なり合い互いを刺激し合いながら共存し、とどまることを知らずに蠢いて、とわに変容し続けるだろう。
そして、それらはわれわれの膠着した日常を揺さぶりつつ、現実を改変し続けていくだろう。」
Web企画〈幻想のパランプセスト ~架空の美術庭園~〉
2024年11月 相馬俊樹(美術評論家)
vol. 8 菅野 陽|Sugano Yo
銅版画家、銅版画史研究者
1957 銅版画 13.5×13.5cm ¥44,000
一九一九年生まれの菅野陽は東京美術学校卒業後ただちに応召された、まさしく学徒出陣の世代、すなわち戦争により癒しがたい深き傷を精神に刻まれた世代に属する。苦渋に満ちた軍隊体験が彼の制作の根底に通底低音としてつねに響き続けていたのは、想像に難くない。
もともと日本画専攻であった菅野は敗戦後、油彩画で画家としてのスタートを切ったが、やはり、彼の表現衝動を存分に発揮できるメディアは硬質な質感をもつ銅版画であったようである。
1953頃 キャンバス、油彩 33.3×53cm(M10) ¥330,000
1953頃 キャンバス、油彩 45.5×33.3cm(P8) ¥297,000
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⦅であい(B)⦆
1955 銅版画 17.1×21.4cm ¥55,000
1958 銅版画 32×53cm ¥77,000
鋭利な線で分断され、腐蝕にさらされて、解体寸前にまで追い込まれる人体、あるいは世界。惨たらしい姿からは苦悶の極みに痙攣する様が、たしかに感得される。だが、それでもなお、彼らはもがきつつ苦虐に耐え、解体という過程を生きているのである。《風II》、《男》、あるいは《トルソ》シリーズのいくつかの作品などを見ると、無惨とともに、生きようとして溢れいでる凄絶な生の力が印象づけられる。謎めいて不可思議な、しかし確信に裏打ちされているようにも感じられる陽気ささえもが解体と破滅を包み込んではいないだろうか。そこには自らの再構築を、再生を破滅寸前のぎりぎりの地点で試みようとする、ある種の賭けが予覚できないだろうか。
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⦅風Ⅱ(風のえちうど)⦆
1963頃 銅版画 20.5×13.5cm SOLD
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⦅男(背面)⦆
1968 銅版画 19.3×9.6cm SOLD
1967 銅版画 32×53cm ¥66,000
1959 銅版画 40.3×32.2cm ¥60,500
駒井哲郎、浜口陽三、長谷川潔など、知名度の高い先人にくらべると、一般の美術愛好家にとっては知る人ぞ知るたぐいの版画家ということになるのかもしれないが、ディープ・エッチ技法を駆使して試みられたダイナミックな線の乱舞は、混迷を極める今の時代だからこそ、顧みられてしかるべき表現といえるのではなかろうか。
1974 銅版画 35.8×29.5cm SOLD
Artist
1919年、台湾台北生まれ(本名は陽太郎)。東京美術学校(現東京藝術大学)で日本画をまなび、作家デビュー時は丸木位里・俊、山下菊二らと前衛美術会を結成、油彩画を発表。その後関野準一郎との出会いから銅版画にのめり込み、1955年日本版画協会展に出品、翌年同会会員。東京国際版画ビエンナーレ展などで国内を代表する銅版画家として活躍。銅版画のさまざまな技法(特にエッチング、アクアチント、サルファチントなどの腐食技法)を駆使した繊細且つ大胆な作風で知られる。国内で初めての銅版画技法書『銅版画の技法』(美術出版社)の著者であり、また初期洋風版画を研究し『日本銅版画の研究 近世』『江戸の銅版画』等を刊行するなど銅版画の研究者として著名である。1995年12月15日、茅ヶ崎市にて76歳で永眠。
Art critic
相馬 俊樹|Soma Toshiki
1965年生まれ。慶応義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒。美術評論家。
主な著書:『エロティック・アートと秘教主義』(2018年、エディシオン・トレヴィル)、『アナムネシスの光芒ヘ』(2016年、芸術新聞社)、『禁断異系の美術館』シリーズ1~3(2009~2010年、アトリエサード)、『エロス・エゾデリック』(2011年、アトリエサード)、『テリブル・ダークネス』(2013年、アトリエサード)、『魔淫の迷宮 日本のエロティック・アート作家たち』(2012年、ポット出版)
編著:「風俗資料館 資料選集」シリーズ=『秋吉巒 挿画集 夢幻の悦楽郷』(2024年、アトリエサード)『伊藤晴雨の世界2 伊藤晴雨 秘蔵画集~門外不出の責め絵とドローイング』(2024年、アトリエサード)/『伊藤晴雨の世界1 [秘蔵写真集]責めの美学の研究』(2023年、アトリエサード)
共著書:『病と芸術』(2022年、東信堂、ロメーン・ブルックス論を収録)、『異界の論理』(2011年、アトリエサード、飯沢耕太郎氏との対談集)
訳書:ピーター・ウェブ『死、欲望、人形 評伝ハンス・ベルメール』(2021年、国書刊行会)


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